新国立劇場 椿姫 ヴィスクヴォルキナ/若杉/東フィル
2002年シーズンオープニング、プレミエ以来の上演となるロンコーニ演出のこのプロダクション。今年6度目の椿姫を聞きに初台へ。
新国立劇場オペラ 2004/2005シーズン 椿姫指揮者は事前に座っていて、照明が落ちて第1幕の前奏曲が始まる。若杉の丹念な表情付けもよしと弦の音が美しい。続いて宴の開始、テンポ・リズム共にやや重め。もっと華やかで生き生きした感じが欲しい。イタリアンというよりはドイツ風の重量感と手堅さを感じる若杉の指揮、ちょっと違和感あるかなあ。佐野(アルフレード)は声の調子は良さそうで、軽く響きの良くのった声が素晴らしい。ヴィスクヴォルキナ(ヴィオレッタ)は少し硬い感触のある声。ヴィオレッタとアルフレードが2人だけになってからの2重唱。アルフレードとヴィオレッタのテンポを微妙に変えて、男と女の心情の違いを巧みに描いた若杉の指揮が印象的。アルフレードのテンポがやや遅めだったので、やや歌いにくそうでした。ヴィスクヴォルキナは歌いだしを跳ねるような表情を付けていたのは、指揮者の意図と相まって喜びを強調していました。宴の最後、合唱がほとんど聞こえないのは指揮者の好みかそれとも左から右へと移動する演出の制約か・・・。宴終わって「そはかのひとか〜花から花へ」。ヴィスクヴォルキナはコロラトゥーラの技術的に不足はないものの、音の粒がもっとすっきりと聞こえるといいかも。歌い回しがちょっと固い印象はありますが、若々しいヴィオレッタ。アルフレードが裏で歌った後とのヴィオレッタがエネルギーを噴出させるところ若杉さんと微妙に息が合わず惜しい。前へいきたいヴィスクヴォルキナと落ち着いたテンポをとりたい若杉。ヴィオレッタに合わせて欲しかったな・・・。若杉のとる遅めの落ち着き払ったテンポ。ヴィスクヴォルキナは対応できていたけど、佐野はやや歌いにくそうでした(声の調子はとても良さそう)。
ヴェルディ : 椿姫【全3幕】
ヴィオレッタ : マリーナ・ヴィスクヴォルキナ アルフレード : 佐野成宏 ジェルモン : クリストファー・ロバートソン フローラ : 林正子 ガストン子爵 : 内山信吾 ドゥフォール男爵 : 小林由樹 ドビニー侯爵 : 大澤建 医師グランヴィル : 志村文彦 アンニーナ : 渡辺敦子 ジュゼッペ : 小田修一 使者 : 大森一英 フローラの召使い : 黒田諭
若杉弘指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:青木高志) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : ルーカ・ロンコーニ
2004年11月28日 15:00 新国立劇場 オペラ劇場
約20分の休憩を入れて第2幕第1場。冒頭のアルフレードのアリア、佐野の喜びあふれる歌いぶりで素晴らしい出来栄え。ビスクヴォルキナは第1幕より思いが声にのっていて、音楽との合口が良くなってきました。ロバートソン(父ジェルモン)はヴィブラートの加減がやや気になるものの、毅然としながらも優しさの感じられる父ジェルモン像。「プロヴァンス」も伸びのいいやわらかい声が印象的。父ジェルモンとヴィオレッタのやり取りも聴き応え充分。ただ、若杉/東京フィルはヴィオレッタの心情に寄り添って欲しい。音は美しいけど、心情やドラマが薄すぎる。第2幕第2場。佐野のアルフレードの怒りを声に乗せた美声を生かした強い表現が素晴らしい。合唱も女性の美しさと男声の力強さが好印象だが、男声の踊りはちょっと・・・(2002年に見た時には気にならかったんだけど)。
今度は25分の休憩の後第3幕。前奏曲が第1幕同様に美しい出来栄え。渡辺(アンニーナ)の深い声が印象的。コンマス青木の美しいヴァイオリンの聞こえる中、父ジェルモンからの手紙をぽつぽつとよむヴィオレッタ。読み終わったあとの「もう遅いのよ」の言葉が心を打つ、ビスクヴォルキナの演技力もなかなかのもの。音楽的に美しく歌われたわけではないのだけど、最後の力を振り絞って語るようなヴィスクヴォルキナの歌い口が素晴らしかった「過ぎ去った日々よ」。美しく歌われるよりも聞き手の心に迫ってきます。彼女、第3幕になって一層声に思いがよくのっている。若杉/東フィルも漣のような弦がヴィスクヴォルキナを一層引き立てます。謝肉祭の喧騒の後、ヴィオレッタとアルフレードの2重唱もヴィスクヴォルキナと佐野の息のあったハーモニーが美しい。そして、ホルンの音がぱーんと鳴り響いた後の静寂。「結局だめなのね」とヴィスクヴォルキナがつぶやくように歌い始めるところも感動的。そして最後に「不思議だわ」と呟くヴィオレッタの実際とは裏腹な生命力をたたえたヴィスクヴォルキナの表情は出色の演技力。
ヴィスクヴォルキナは幕を追う毎にヴィオレッタの心情に迫っているのが見事。第1幕がばっちり決まるともっと素晴らしいヴィオレッタを歌い演じられる筈。佐野は今が脂が乗っている時期なんでしょう。いい声が出ているし、歌も素晴らしい。8月の「ルチア」エドガルド役も素晴らしかったし、来年1月の藤原歌劇団「椿姫」の今日と同じアルフレード役も楽しみ。ロバートソンももう少し加齢するといい父ジェルモンになりそう。
若杉/東フィルは全体的に手堅い演奏ですが、テンポとリズムがイタリア物としては重め。でも、第3幕は舞台との一体感があって素晴らしかった。他の幕も同じように一体感を醸成して欲しかったかと。オケの音色は美しいけど表情があっさりしすぎの感有り。もっと人物の心情とドラマを表現して欲しい。
ロンコーニの演出は落ち着いた暖色系の色合いの舞台装置がいいですね。今回改めて見てみるともうちょっと舞台の質感があるといいかなと思いました(舞台奥のほうは安っぽく感じてしまう)。前回の指揮者カンパネッラの抑制の効いたアプローチと相まっての好印象が記憶に残っているので、ちょっと辛めの視点になっているのかもしれません。
「終わりよければ・・・」ではないですが第3幕は素晴らしかっただけに、第1幕と第2幕が同様に充実していたらと思うのは聞き手(私)の欲深さでしょうか・・・。
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