二期会 ドン・ジョヴァンニ Aキャスト 黒田/ヴェロ/東京フィル
東京二期会オペラ劇場 ドン・ジョヴァンニまずは宮本亜門の演出から。現代=今を表す意匠(廃墟、銃、携帯電話、ドラッグ、星条旗等)を用いてスピーディーかつ生き生きとした舞台を作り出していました。しかし、全体的な印象としてはややインパクトが薄いし、なにをアピールしたいのかがいまいちわかりにくいかと。一般的な悪者としてドン・ジョヴァンニを描いていないのは明白なのだけど・・・。生き生きとした動きといろいろとサービス精神旺盛なところは見ていて楽しいのは確かなのですが(演出的にはキャンディードと通ずる部分があるかもしれません、多分)。2幕後半に出てくる星条旗、廃墟=グラウンド・ゼロのイメージとあわせるとそうかなあという気もしますがあまり必然性は感じられませんでした。
モーツァルト : ドン・ジョヴァンニ
ドン・ジョヴァンニ : 黒田博 騎士長 : 堀野浩史 ドンナ・アンナ : 吉田恭子 ドン・オッターヴィオ : 望月哲也 ドンナ・エルヴィーラ : 佐々木典子 レポレッロ : 境信博 マゼット : 斉木健詞 ツェルリーナ : 林美智子
パスカル・ヴェロ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:青木高志) 二期会合唱団 (合唱指揮:松井和彦)
演出 : 宮本亜門
2004年7月24日 15:00 東京文化会館 大ホール
面白かったところを何点か。
・ドン・ジョヴァンニと騎士長の銃撃戦
・ツェルリーナのマゼットへの薬はドラッグを注射器で
・ドン・ジョヴァンニの女性遍歴カタログは携帯電話(2〜3台ならまだしも数珠繋ぎに出てきたときには笑いました)
・最後の晩餐は貧しい人への施し(でも、ケンタッキーフライドチキン)
・ドン・ジョヴァンニのセレナーデは(ソニー製)ラジカセを傍らに・・・
黒田博のドン・ジョヴァンニは舞台姿の格好良さとスタイリッシュとも言えるノーブルな歌唱で好演。存在感とかを求める向きには不満があるかもしれませんが、演出の求める方向性にはマッチしているかと。
佐々木典子のドンナ・エルヴィーラはやや古い世代の設定にマッチした演技と歌唱は安定感抜群、安心して聞ける強みは他に変え難いものがあります。動きの多い演出にタイトスカートは酷かと(それも狙いかもしれませんが)。
境井信博のレポレッロはドン・ジョヴァンニの相手役にふさわしい見事な出来。演技も歌唱も生き生きとしているし、道化的な味にも欠けていないし。タイトルロールの黒田博より上に評価してもいいかも。
吉田恭子のドンナ・アンナと望月哲也のドン・オッターヴィオは素直な声質を生かした歌唱が好印象。吉田恭子は長いフレーズでの安定感が増すともっと伸びるかと。
斉木健詞のマゼットと林美智子のツェルリーナも若々しい演技と歌唱で好演。林美智子は高い声の響きがまとまると、素晴らしいハイメゾになる可能性を秘めています。有名な二つのアリアも素晴らしかった。
堀野浩史の騎士長はやや存在感が薄め。特に地獄落ちの場面では、演出に関わらず重みと存在感がもっと欲しい。よい声質をしているので今後に期待かと。
スピーディな動きの演出にマッチした、生き生きとして小気良くかつ繊細感も感じられる音楽を奏でたヴェロ率いる東京フィルは素晴らしい出来。なにしろ音がぴたっとあっているのがなにしろ心地良いし、ホールの隅々に届く演奏になっていました。歌手達のアンサンブルもきちんと手綱をさばいていて、素晴らしいアンサンブルで上質なハーモニーを引き出していました。
明日もBキャストを聞きにいく予定です。
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