尾高忠明/日本フィル/天羽明恵 東京定期 マーラー:交響曲第4番
先月末をもって炎のコバケンが音楽監督を退任し、今シーズンはシェフ不在となっているこのオーケストラ。現在、サントリーホールが改修工事で休館中のため、定期演奏会の会場を東京オペラシティへ移して開催しています。今日は久々にビジネスマンの得券を使って聞く日本フィル、尾高忠明の振るマーラーを楽しみに初台へ。
日本フィルハーモニー交響楽団 第589東京定期演奏会東京オペラシティ地下1階のコンビニエンスストアで小腹を満たす食べ物を購入して3階のコンサートホールへ。当日券売り場でビジネスマンの得券を購入してロビーへ足を踏み入れると、前半のモーツァルトのト短調交響曲の第3楽章が始まったところ。3階のロビーでスピーカーから聞こえてくるモーツァルトを聞きながらちょっと腹ごしらえ。
2. マーラー : 交響曲第4番 ト長調
ソプラノ : 天羽明恵(2)
尾高忠明指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:木野雅之)
2007年4月20日 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
今日の日本フィルは弦楽を1Vn-2Vn-Vc-Va/Cb右に並べた通常配置で、後半の編成は14-12-10-8-7。指揮者台の左前方には第4楽章で「天上の生活」を歌う独唱者用の椅子が置かれ、第2楽章終了後に舞台へ登場していました。
第1楽章冒頭から早めのテンポを設定し、淀みなく生き生きと曲を進めていくマエストロ尾高。日本フィルから明るい音色を引き出し、高弦の奏でるメロディーは甘美に、低弦のリズムは躍動的にと曲の「幸せな」一面を華やかに描いてきます。一方、管楽器等で表される「棘」は日本フィルの思い切りの良さが生かれていて切っ先は鋭い。ポリフォニックな絡みも立体的によ~く見えるように指示を飛ばし、「美しいものには棘がある」世界をメリハリよく表現していくマエストロのアプローチ。でも、陰影の深さを求める方向ではない「明るい切っ先の鋭い棘」なのが面白かったですね。
そんなマエストロの棒に日本フィルが十分に応えていたかはというと・・・、ちょっと微妙かなあというのが正直なところ。このオーケストラが持ち合わせているパワーと思い切りの良さは「明るく鋭い棘」にぴったり。マーラーのいろんな要素が絡み合った部分では多少アンサンブルが粗かったり、意図的なヘタウマなのか技量不足なのか判然としないところがあったとしてもまあ良し。でも、静的な美しさが際立つ部分はきっちり決めて欲しいところ。特に第3楽章の前半、ピッチの定まらないチェロとヴィオラ、弦全体の痩せた響きは音が死んでいるとしか感じられず、そして自発的に音楽が前へ流れていかずに緊張感が失われてしまっているのは聞いていてかなり辛い。炎のマエストロが退任したいま、オーケストラとしての基礎体力を作り直すチャンスではないでしょうか。例えば、正指揮者の沼尻竜典が振る時の日本フィルは結構いいアンサンブルを聞かせてくれると思うのですが・・・、昨年10月末に聞いた東京定期の「英雄の生涯」はなかなか良かったですし。
第3楽章前半の「がっかり」を救ってくれたのは、終楽章の「天上の生活」を歌った天羽明恵。伸びのある声で多彩な表情で生き生きとした歌唱を披露し、最終節では落ち着いた雰囲気で最後を纏めてくれました。オーケストラも彼女の歌声に寄り添い、美しく良好なアンサンブルを聞かせていたと思います。尾高さんの振るマーラーを聞くのは(多分)はじめてでしたが、また聞いてみたいものです。
カーテンコールではマエストロがこの演奏会をもって退職するヴァイオリン奏者を紹介、同じプルトの団員から花束が、そして舞台と客席から暖かい拍手が贈られていました。
(2007.4.22 記)
Comments
このコンサート、ぜひ聞きたかったのですが、仕事の関係で行けなかったので、とても参考になりました。
>炎のマエストロが退任したいま、オーケストラとしての基礎体力を作り直すチャンスではないでしょうか。
ほんとにそう思います。70年代(といっても、その頃の日フィルを僕が知っている訳ではありませんが)からのベテラン楽団員の方々が次々に退団されていることもあって、新しい日フィルの音をしっかり作ってほしいと願っています。
(他のオケに比べて)日本フィルのメンバを良く知っているわけではありませんが、丁度世代交代の次期なんでしょうね。若いメンバ(オーボエの真田さんとか)は力を持った人達ですので、シェフ不在はちょっと痛いんじゃないかなあと思った次第です。