森麻季/金聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢 倉知竜也/山田耕作/モーツァルト/ベートーヴェン
すみだトリフォニーホールで開催されている地方都市オーケストラ・フェスティバルも今年で9年目。今年の初陣を飾るのは金聖響とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)。既にベートーヴェンの交響曲を何曲かレコーディングし、好評を得ているこの組み合わせ。この組み合わせ今日の公演が東京デビューとなるのではないでしょうか。金沢でレコーディングを終えたばかりの田園を含むプログラムを楽しみに錦糸町へ。
地方都市オーケストラ・フェスティバル2006当日券を購入し開演約5分前にエントランスを入ってホールの中へ。舞台前方に赤絨毯が敷かれて30本の筝が並ぶ様はなかなか壮観。その後ろに並ぶOEKはCb-1Vn-Vc-Va-2Vnのヴァイオリン対向配置で編成は8-6-4-4-2。
オーケストラ・アンサンブル金沢 演奏会
1. 倉知竜也 : 八橋検校による「六段」幻想 -筝とオーケストラのための 2. 山田耕作 : からたちの花 3. モーツァルト : 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 K.527 より アリア「恋人よ、さあこの薬で(薬屋の歌)」 4. : 歌劇「フィガロの結婚」 K.492 序曲 5. : モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」K.165(158a) - Intermission - 6. ベートーヴェン : 交響曲第6番ヘ長調 作品68 「田園」 - Encore - 7. ベートーヴェン : バレエ音楽「プロメテウスの創造物」作品43 序曲
ソプラノ : 森麻季(2,3&5)
金聖響指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢 (コンサートマスター:アビゲイル・ヤング) 砂崎知子 箏志会(1) 安藤政輝 輝箏会(1) 深海さとみ 深海邦楽会(1)
2006年1月27日 19:00 すみだトリフォニーホール 大ホール
プログラムの最初は倉知竜也の手による八橋検校の「六段」を基にした幻想曲。オーケストラの導入部に続いて、筝が演奏する各段をオーケストラがエピソード等を加えながら彩っていく感じでしょうか。掛け合いというよりは和と洋の協調が主体となっています。オーケストラは弦の強いピッツィカートや音程の揺れ(筝の弦を押して出る音)で筝を模倣。間を生かしたい筝合奏と、前へ前へと進みたいオーケストラ。双方の間合いが異なるのが面白い。もう少しその違いを際立たせても良かったかなあとも思いましたが、オーケストラの明るい響きのよくのったサウンドと共に楽しみました。演奏終了後、筝合奏のメンバがそそくさと楽器を携えて両袖へ。次の曲への転換を急ぎたい意図があったのかもしれませんが、きちんと拍手を受けさせてあげる工夫が欲しかったと思います。
赤絨毯が取り払われてもオーケストラの位置はそのまま、通常より弦2プルト分くらい後ろでしょうか。この後は森麻季を迎えて、山田耕作と今日250歳を迎えたモーツァルト。山田耕作が入っているのは前曲からモーツァルトへのつなぎという意味合いでしょうか。今日の彼女の歌声はいつもの軽やかさが後退していてやや重めの印象。声が輝かない分、(声を)張った部分以外は客席へ声が今ひとつ届いて来ず、低い音域もエッジがいまひとつ立たない(「からたち~」の「か」の音とか)。それでも丁寧な歌い口で手堅く歌をまとめていたのはさすが。金聖響とアンサンブル金沢は(モーツァルトは)古楽テイストの奏法を基本とし、美しい音色でぴったりと歌にあわせていました。生き生きとした感じもよくでていましたし、ユビラーテの弧を描くようなフレージングも美しかった。欲を言えば「薬屋の歌」等では舞台が目に浮かぶような表情付けがほしいところですが、これはオペラの経験を積まないと難しいかなあ。オーケストラだけで演奏されたフィガロの序曲はノン・ヴィブラートの弦と瑞々しい木管のコントラストが鮮やかで、キリット引き締まった颯爽とした演奏を披露。最後に抜き加減の弦の響きが美しく残ったのが印象的でした。なお、ティンパニは六段では大きな釜を用いた普通の楽器を使っていましたが、フィガロからは小さな釜を木組みの台で支えるバロックタイプのものを使用していました。
休憩をはさんで後半はベートーヴェンの田園。オーケストラの位置は前半のまま、弦を増強し8-8-6-4-3の編成での演奏。弦を中心に古楽奏法を取り入れながら、非常に前向きなエネルギーを感じさせてくれるる田園。貧相にならずにエネルギー感のある豊かな響きもたらすノン・ヴィブラートを主体とした弦、瑞々しい木管、そしてアタックの鋭い金管とティンパニ。それでいて、あくまで弦楽を中心に木管がでしゃばることがない音量バランスはとても好感が持てます。第2楽章等では「ほらほら、こここうやってるでしょ」というあざとさは皆無なのにも関わらず、自然と耳に届く内声の動きの新鮮なこと。第4楽章のティンパニの強打や金管のアタックの強さそして弦の刻みの迫力。ピッコロの響きが突出せずに自然なバランスで聞こてくるのもいいですね(場合によっては、結構やかましいこともある(笑))。第1楽章ではぎこちなさを感じたホルンも終楽章では柔らかなフレージングで聞かせてくれましたし、終始表情豊かに歌っていたクラリネットの1番奏者に拍手を。(前半はどうだったかは記憶が残ってませんが・・・)フルートの1番奏者は木製ボディ(黒色)の楽器(N響の神田寛明氏と同様)を用いて演奏していました。あと、金管も現代楽器を使用しての演奏でありました。
アンコールは「プロメテウスの創造物」序曲。強いアタックで開始されたゆっくり目の序奏、そして快速で走る主部へ移行。単に飛ばすだけでなく、多彩な表情が織り込まれた快演だったと思います。
金聖響って人は非常に前向きな人間なんだろうなあ、と思った演奏会でした。金聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢の組み合わせでの次の東京公演は5月8日と9日、既に録音が発売されているエロイカを中心としたプログラムが予定されているようです。是非とも聞いてみたいのですが、GW明け直後の平日なのでちょっと無理そうだなあ(笑)。
Comments
前後の日に行われた同一プログラムを含めるとjosquinさんとは何度も同じ公演を聴いているようで、コンサート・レポ楽しみにしています。
私もトリフォニーは好きなホールです。ここを本拠地としているNJPもよく聴きにいきますし、地方オケフェスティバルをはじめとする自主公演(客入りはよくないですが・・・)も興味をそそります。平日、職場から定時上がりで開演時間に間に合うのも嬉しいホールです。
preludeさんの感想も楽しみにしております。
本記事を読ませていただきながら、昨年聴いた聖響さん指揮大阪センチュリーの「田園」の感動がよみがえってきました。
あれは本当に素晴らしい演奏体験でした。
次いで聴いた「第7」も素晴らしかった。
また聴きたいと思わずにはいられません。
「非常に前向きな人間」・・・私もそう思います。
彼の演奏にはいつも「挑戦」が感じられるんです。
生コンサート経験の少ない私がこんなことを言うのはヘンだと思いますが、でも、そう思えるんです。
時にプロがヘビー過ぎてオケの方々がヘバッてしまうこともあるようですが、「それくらいのパワーがないとダメや!」とも感じています。
ともかく、今、私が最も注目し応援したくなっている指揮者です。
「田園」はレコーディングも為されて今年中に発売されるかと思います。
そちらも楽しみにしています。
ああ~、また聴きたいなぁ~。
長々と失礼しました。
遅れましたが、今年もよろしくお願いいたします。
> 彼の演奏にはいつも「挑戦」が感じられるんです。
ある意味、自分の意思を貫く「挑戦」なのかもしれませんね。金聖響とほぼ同年齢の下野竜也や阪哲朗も、キャラクターの違いこそあれ「挑戦」を実践している指揮者ではないかと思います。
こちらこそ、今年もよろしくお願いしますm(__)m。
レポート、楽しく読ませていただきました。
よいホールによい演奏家、充実のコンサートですね。
ところで、”演奏終了後、筝合奏のメンバがそそくさと楽器を携えて両袖へ。”
とのことですが、
もしかしてこれは、お能・狂言みたいな感じだったのではないでしょうか?
定刻になると予鈴もなく、するすると演者たちが登場。
それぞれ役割が終わると、さらりと退場。
舞台終了時も、拍手はご法度、余韻を楽しむ・・・みたいな?
それはそれで慣れると一種独特の緊張感があってよいものなのですが、
オーケストラと一緒ですと、やはり違和感があるかもしれませんね。
以上、勝手な憶測でした。f^^;
なるほど、お能や狂言はそういう感じなんですね。実際に接したことがないので参考になります。今まで接した和楽器とオーケストラの共演では、和楽器の方も(クラシック系では)普通に拍手を受けていたので「あれ」と感じた次第です。