下野竜也/東京フィル/東京オペラシンガーズ 「第九」特別演奏会
来年11月から読響正指揮者への就任が発表された下野竜也。昨年の読響との第九は残念ながら聞けませんでしたが、今年は東フィルとの第九ということで期待しておりました。今日は下野/東フィルの第九を楽しみに初台へ。
東京フィルハーモニー交響楽団 ベートーヴェン『第九』特別演奏会まずはバーバーのアダージョから。クライマックスでも感情を高ぶらせて叫んだりせず、ひたすら美しい音色を聞かせることに徹した下野らしい好演。(バーバーはそういう意図はなかったようですが)追悼に使われることも多いこの曲をどのように捉えるかを聞き手にゆだねた演奏と言えるかもしれません。
1. バーバー : 弦楽のためのアダージョ 休憩 2. ベートーヴェン : 交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱付」
ソプラノ : 野田ヒロ子(2) アルト : 渡辺敦子(2) テノール : 望月哲也(2) バリトン : 堀内康雄(2)
下野竜也指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:青木高志) 東京オペラシンガーズ(2)
2005年12月25日 15:00 東京オペラシティ コンサートホール
オーケストラは前後半共に1Vn-Vc-Va-2Vn/Cb左のヴァイオリン対向配置で、弦の編成は16型。合唱はS-A-T-Bの並び、ソリストは合唱の最前列中央にS-A-T-Bの配置でした。
休憩の後はメインの第九。第1楽章は(私の勝手な)予想通り、速めのテンポをとり、前へ前へと進む推進力とリズムの切れ味のよさが特徴。インテンポを基調とし、これみよがしな見得は一切ないところが潔い。それでいて、この曲の持つエネルギーと多彩な表情と色彩、そして瑞々しさを十二分に感じさせてくれます。展開部の長大なクライマックスを緊張を切らさずに持続させていたのは指揮者、東フィル共々見事でした。
第2楽章も第1楽章に引き続いて、多彩な表情が楽しい。力強かったり、コミカルだったり、ずっしりとした重量感だったり、瑞々しい木管の色彩だったりと。トリオもちゃんと手綱を緩めてホッとさせてくれます。
ソリストが入場した後の第3楽章は1曲目のバーバー同様に、ひたすら美しく素直にメロディーを歌わせているのがとても好感が持てます。やたらと崇高さを際立たせるのではなく、どちらかというと身近な親近感がとてもいい。クライマックスの後、名残惜しそうなセカンドヴァイオリンのリズムがほとんど聞こえてこなかったのは下野の解釈か、それとも楽譜(版)によるものなのかなあ。4番ホルンの難所は3番ホルンに吹かせていました、ちょっと惜しかったなあ(笑)。
第4楽章はまず開始早々、早めのテンポで駆け抜ける低弦の切れ味抜群のレチタティーヴォが耳を惹きつけます。第3楽章のリフレインの優しい表情が印象的。歓喜のメロディーももったいぶることなくすっと開始。バリトンの堀内康雄は高い声の伸びも良く、"freudenvollele" の低音もきちんと響かせていてやっぱり上手い。オペラティックな味付けですが、どこか優しさが漂う歌唱を披露してくれました。東京オペラシンガーズもいつもながらの素晴らしい歌声。美しさと力強さは天下一品、これだけ第九を安心して聞ける団体(第九だけではないのですが)は国内では他にないのではないかと思えるほど。"vor Gott" はティンパニをディミュニエンドさせてハーモニーの美しさを際立たせていました。トルコ行進曲も早い早い(笑)。望月哲也もそのテンポに乗って持ち味のノーブルな美しさに加えて力強い歌声を披露。女声から始まる"Seid umschlungen"の部分、堂々としたテンポで押し切っていたのは東京オペラシンガーズあってのもの。最後の "Freunde, shoner Gotterfunken, Gotterfunken" を遅くせず、速いテンポで突き進んでいったのはちょとびっくり。器楽だけのプレストのほうが(テンポはもちろん早いけど)遅く感じられて、力強さが際立つのが面白かった。少し物足りない気がしないでもありませんが・・・。
東フィルはもう少しきりっとした切れ味が欲しいなあと思うところがありましたが、下野の要求によく応えていました。野田ヒロ子、渡辺敦子、望月哲也、堀内康雄と癖の少ない声の歌手を揃えた4重唱も美しいハーモニーを聞かせてくれていました。
切れ味の良い刃物でズバッと切った切り口がとても色鮮やかな第九。とても新鮮に聞くことが出来ました。瑞々しい色彩感を引き出していた下野竜也の手腕には感心させられましたし、縦だけでなく横に振ることが出来るのは表現の幅につながっているような気がします。再来年の12月には正指揮者を務める読響との第九も予定されているようです。彼の今後の活躍を期待したいと思います。
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