青いサカナ団 トリスタンとイゾルデ 田代誠/飯田みち代/神田慶一
昨年2月の新国小劇場オペラ「外套」で小編成のオーケストラから充実した音楽を引き出していた指揮者が神田慶一。彼の率いる青いサカナ団が今回挑むのがなんとトリスタンとイゾルデ。josquinにとって3度目の生トリスタンを聴きに中野へ。
国立オペラ・カンパニー 青いサカナ団 第25回公演 トリスタンとイゾルデ会場で配布されたプログラムによれば、今日のトリスタンは初演時のカットを踏まえ各幕を1時間程度に整え、神田慶一の手によりオーケストラを約50人の2管編成に集約した形での上演。ちなみに弦の編成は7-6-5-4-3と、普通の上演の半分以下の大きさ。
日本におけるドイツ2005/2006参加事業
・ ワーグナー : 楽劇「トリスタンとイゾルデ」
トリスタン : 田代誠 イゾルデ : 飯田みち代 マルケ王 : 斉木健詞 ブランゲーネ : 小畑朱実 クルヴェナル : 今尾滋 メーロト : 大槻孝志 若い水夫/羊飼い : 所谷直生 舵手 : 吉川誠二
神田慶一指揮 Orchestre du Poisson Bleu(青いサカナ管弦楽団) (コンサートミストレス:成原奏) 青いサカナ合唱団
演出 : 粟國淳 美術 : ベニート・レオノーリ
2005年6月18日 15:00 なかのZERO 大ホール
正直なところ辛い思いをしながら聞くことも覚悟していたのですが、それは余計な心配でした。神田慶一は編成を縮小したことから推測できるように、濃厚でロマンティックな味付けよりも見通しの良い響きと精妙な味わいに焦点を当てた演奏を披露してくれました。音楽が音量を増し熱を帯び、クライマックスに向かっていくうねりみたいなものにも欠けることなく。ただ、神田慶一の意図を実現するには残念ながらオーケストラの力不足は否めないなあと。管楽陣は水準に達していたと思うのですが、弦楽陣についてはピッチの安定性や音色の魅力共に水準アップを望みたいところ。特にチェロのみなさん!そうすれば、オーケストラ全体の音色が溶け合い、室内楽的な味わいの向上や更なるうねりが表現できる筈。合唱も高い音域が叫び声に近くなっていたのが惜しかった。
カットやオーケストレーションの変更はいろいろ言えるほど詳しくはないので他の人にお任せ(笑)。でも私の耳にはとりたてて言うほどの違和感はなかったように聴きました。第3幕の冒頭、通常だとイングリッシュホルンが延々とソロを吹く部分。ここをサックスに吹かせていました。
池田卓夫による適材適所のキャスティングも秀逸。イゾルデを歌った飯田みち代はフィナーレの愛の死に向かっていくペース配分をよく考えていましたね。大オーケストラに対抗できる声量はもちろんありませんが、やや線の細い落ち着いた声のイゾルデは今回の上演に相応しい持ち味。愛の死は持てる力を存分に発揮した渾身の歌唱が見事でした。対するトリスタンはベテランの田代誠。ところどころ発声のスムースさ欠ける部分はあったものの、ベテランらしい安定した歌を披露していました。マルケ王の斉木健詞は押し出しの強い声が魅力。小畑朱美のブランゲーネは声にもう少し深い響きが欲しいきがしますが、その毅然とした歌からかもし出される存在感は見事でした。いつは気になる大きなヴィブラートも殆ど気になりませんでした。クルヴェナールの今尾滋は明るいキャラクターが持ち味だと思うのですが、声のニュートラルさと影の表現のバランスがよくとれていたように聴きました。
粟国淳の演出はスクエア状の箱を用いた舞台装置と効果的な照明で表現するシンプルなもの。衣装もモノトーン中心ですが、2幕でイゾルデのドレスの裏地に赤を使いちらりと見せていたのがとても印象に残りました。全体的に抽象的な表現でしたが歌手に無理な動きを施さずに、聞き手も歌に集中できる好演出だったと思います。
今日のこのトリスタン、神田慶一の意図がよく浸透していて充実した上演だったと思います。オーケストラと合唱のブラッシュアップを図れば更に優れた上演を目指して欲しいものです。是非とも再演を期待したいと思います。
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