東京オペラの森 エレクトラ ポラスキ/小澤/東京オペラの森管
エレクトラというと、2002年6月N響定期のコンネル/デュトワ(演奏会形式)や昨年11月新国立劇場のアームストロング/シルマー/東フィルと何れも充実した公演が記憶に新しいところ。今年から東京文化会館で開催されることになった東京オペラの森、オープニングを飾るエレクトラの公演を聴きに上野へ。
東京オペラの森 オペラ公演 エレクトラ小澤征爾率いる精緻さと迫力を兼ね備えたオーケストラ、タイトルロールのポラスキを初めとするパワーと表現力を兼ね備えた歌手達、そしてシンプルな舞台装置を用いながら的確に物語を描いていくカーセンの演出。「一分の隙もない」とか「三位一体」という言葉がすぐに浮かんでくる、クォリティが高い要素のひとつひとつががっちりと噛み合った素晴らしいエレクトラでした。
・ R.シュトラウス : 歌劇「エレクトラ」作品58
第1のメイド : エレン・ラビナー 第2のメイド : ゼン・チャオ 第3のメイド : ジェーン・ダットン 第4のメイド : ロザリンド・サザーランド 第5のメイド : ジェニファー・チェック 監視の女 : 田中三佐代 エレクトラ : デボラ・ポラスキ アガメムノン(助演) : エリック・ラーヴェス クリソテミス : クリスティーン・ゴーキー クリテムネストラ : アグネス・バルツァ 側仕えの女 : 佐藤早穂子 裾持ちの女 : 馬原裕子 老いた従者 : 成田眞 若い従者 : 岡本泰寛 オレスト : フランツ・グルントヘーバー 後見人 : 山下浩司 エギスト : クリス・メリット 6人の侍女 : 泉貴子 永崎京子 文屋小百合 三宮美穂 紙谷弘子 戸邉祐子
小澤征爾指揮 東京オペラの森管弦楽団 (コンサートマスター:レイモンド・ニューヴィック) 東京オペラの森合唱団 (合唱指揮:キャサリン・チュウ)
演出 : ロバート・カーセン
フィレンツェ歌劇場との共同制作
2005年3月13日 15:00 東京文化会館 大ホール
このフェスティバルのために編成された東京オペラの森管弦楽団は、メンバ表を眺めるとサイトウ・キネン・オーケストラの常連から比較的若い人材を中心に編成されています。ほぼサイトウ・キネン・オーケストラと言ってもあながち間違いではない陣容です(笑)。コンサートマスターのレイモンド・ニューヴィックは、長年にわたってメトロポリタン・オペラのコンサートマスターを務めていた人物。そんなメンバ達が小澤征爾の指揮の下奏でるオーケストラの演奏はやはり「ここは松本か?」と思えるもの(笑)。小澤征爾の余計な思い入れを廃した音楽作りに呼応して、R.シュトラウスの書いた精緻なスコアを見事なまでの精度で音にしていきます。パート内だけではなく、細かな音の動きまでもぴったりとあったオーケストラ全体のアンサンブルの見事さ。繊細なピアニッシモから金管が咆哮するフォルティッシモに至るまで、高弦を中心にして磨かれた美しさと迫力を兼ね備えたサウンド。「スコアに全部書いてあるから、それを正確に音にすればいい」という姿勢を貫き、それを見事に成し遂げた素晴らしい演奏だったように思います。もし、物足りなさを感じるとすればある種の「色気」なんだろうなあと思います。それは、小澤がウィーンやドレスデンの歌劇場のオーケストラを振れば出るのかもしれませんが・・・。
強力なオーケストラをものともしない歌手達もまた素晴らしい限り。ポラスキ(エレクトラ)の冒頭から最後まで衰えない強靭なスケールの大きな声と豊かな表現力で見事なタイトルロールでした。そのポラスキに絡む4人も素晴らしく、ゴーキー(クリソテミス)は殆どポラスキと対等の存在感を示し、バルツァ(クリテムネストラ)はエレクトラとの対抗軸としてのキャラクターを存分に発揮、グルントヘーパー(オレスト)も的確な表現力と存在感を示し、そしてメリット(エギスト)も出番は短いながらも役のキャラクターを的確に表現していました。そして脇を固める歌手たちも素晴らしく、特にメイド役の5人は主役を張ってもおかしくないほど。
そしてカーセンの演出。アガメムノンのテーマが鳴らされ幕が上がると舞台の三方は黒い壁で覆われ、床面には一面の土が敷き詰められています。やっぱりカーセンは「土」に愛着があるのですね(笑)。SKFのイェヌーファでも舞台一面「土」でしたし。その土の上に黒いワンピースを着たエレクトラをはじめとする女性達が倒れている。音楽が進むにつれて女性たちが立ち上がって演技をし始めます。エレクトラにはメイドたちの他にも、同じ衣装の女性達が分身のようにまとわりついている。衣装はエレクトラ達は黒色で、クリテムネストラとエギストだけは黒と究極の対照を成す白で統一し役柄の立場を明確に表現。必要最小限の道具と照明、そしてエレクトラの分身の女性達を巧みに利用して歌詞で歌われる内容を的確に視覚化。冒頭と同様にエレクトラと分身の女性達が土の上に倒れる幕切れまで、音楽の緊張感を損なわずにドラマの緊張感をあらわしていた見事な演出だったと思います。最初と最後を同じ映像にすることで「何らかの」問題提起を示すところはカーセンらしいところでしょう。
初日でこれだけクオリティの高い上演が達成出来たのできたのですから、回を追うにつれて更に良くなってゆくのではないでしょうか・・・、SKF公演でも大概そうですし。
Comments
あくまでも私の感想なのでご参考程度に・・・(笑)。私もオケ公演いきたかったのですが、他にも聴きたいのがいろいろありすぎて断念しました。yukari57さんのDiaryいつも読んでおります。今後ともよろしゅう。