さいたま芸術劇場 レジデンス・クワルテット 室内楽コンサート ベートーヴェン/ドビュッシー/ドヴォルザーク
素晴らしい演奏で成し遂げられた、ベートーヴェンのクワルテット全曲演奏が印象に残っているこのクワルテット。そのベートーヴェンの最終回以来、スケジュールがあわなくて耳にしていないこのクワルテット。最近、ヴィオラが日替わり状態(柳瀬省太に代わる人材を選定中?)なのがちょっと心配。なにはともあれ(笑)与野本町へ。
彩の国さいたま芸術劇場 レジデンス・カルテット室内楽コンサート今日のヴィオラは元都響主席の川本嘉子。このさいたま芸術劇場での小山実稚恵の室内楽シリーズに出演した縁でしょうか。
1. ベートーヴェン : 弦楽四重奏曲第16番ヘ長調作品135 2. ドビュッシー : 弦楽四重奏曲ト短調作品10 休憩 3. ドヴォルジャーク : 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調作品96「アメリカ」 アンコール 4. ベートーヴェン : 弦楽四重奏曲第16番ヘ長調作品135 から 第3楽章
彩の国さいたま芸術劇場 レジデンス・クワルテット
第1ヴァイオリン : 松原勝也 第2ヴァイオリン : 鈴木理恵子 ヴィオラ : 川本嘉子 チェロ : 山崎伸子
2004年10月16日 16:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
まずはベートーヴェン。一歩一歩しっかりと足取りを確かめるように演奏されていきます。さまざまなモティーフが入れ替わり立ち代わり現れる第1楽章、リズムの面白さが愉しい第2楽章ではやや安全運転でその面白みがやや減じていたかもしれません。第3楽章ではそのようなアプローチが功を奏し、落ち着いた音色としっかりとあった音と共にじっくりと丹念にメロディーが歌われる好演。最終楽章は戸を叩くような「タタタ」の音形とそれに対する旋律のコントラストが良く現れていました。またフィナーレ前のピツィカートのチャーミングさが印象に残りました。このクワルテット下3人がしっかりと土台を構築し松原を自由に遊ばせる傾向があったのですが、ヴィオラが変わったこともあるのかより4人の立場がより対等になっているようです。音色もやや明るい方向になっているように聞きました。音がきちんと合っていてハーモニー感が素晴らしいのは変わらずで、安心して聞くことが出来ます。
続くはドビュッシーですが、ベートーヴェンとは対照的に冒頭から艶っぽい音色と動きのある生き生きとした音楽が展開されました。第1&2楽章の躍動感、第3楽章の弱音器を付けた柔らかい響き、そして終楽章のこれもまた生き生きとした音楽。意外と言ったら失礼かもしれませんが、今はこういう音楽がいま一番ぴったりするのかもしれませんね。楽しく聞かせてもらいました。
休憩後はドヴォルジャークのアメリカ。このクワルテットが一番演奏している曲ではないでしょうか(私は始めて聞きましたが)。ずっしりと聞き応えのある個性的な演奏ではなかったでしょうか。冒頭から、ややゆっくり目のテンポで弾き飛ばさずに、メロディーを丹念に紡いでいく。そのメロディーの歌い方が、大きな身振りでスケール感豊かに思いいれたっぷりに歌う松原勝也(この人の一番良い面が出たのでは、小細工のない骨太な演奏という意味で)、対照的にニュートラルだけど情感豊かに歌う山崎伸子と各人の個性がはっきりと聞き取れるのが面白い。特に、第2楽章はその対比が良く現れた演奏になっていましたし、ゆったりとしたテンポ設定がこの曲の違う顔を見せてくれたのではないでしょうか。第2楽章の終結部でのチェロの旋律に寄り添うヴィオラのトレモロがこれほど意味深く聞こえる演奏もそうないのではないでしょうか。続く、第3楽章もスケルツォのリズムよりは歌いこむことを重視した演奏で、トリオのゆっくりとしたテンポが特徴的。終楽章もまたしっかりと骨太とも言える演奏でした。
松原勝也の「どれにしようか?」という身振りで決められたアンコールは、最初に演奏されたベートーヴェンの第3楽章でした。
このクワルテット、日本のクワルテットのなかでは非常に素性のいい団体だと思います。早くヴィオラを固定してじっくりとアンサンブルを練り上げていってほしいものです。
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