新国立劇場 ラ・ボエーム ニテスク/井上/東フィル
新国立劇場 2004/2005シーズン ラ・ボエーム昨年4月プレミエの粟國淳演出によるプロダクションの再演。骨格のがっちりとした土台をベースにメリハリのはっきりとした音楽作りで、オーケストラ、コーラス、ソリストそして指揮者自身の個性(笑)をうまくまとめた井上道義の手腕が光る上演でした。
プッチーニ:ラ・ボエーム 全4幕
ミミ : アディーネ・ニテスク ロドルフォ : ジェイムズ・ヴァレンティ マルチェッロ : カール=マグヌス・フレドリクソン ムゼッタ : 水嶋育 ショナール : 河野克典 コッリーネ : シャオリャン・リー べノア : 大久保眞 アルチンドロ : 晴雅彦 パルピニョール : 樋口達哉
井上道義指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:荒井英治) 新国立劇場合唱団 NHK東京児童合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : 粟國淳
2004年9月25日 17:00 新国立劇場 オペラ劇場
井上道義の指揮は、第1幕での音楽の勢いと鮮やかな色彩の両立、第2幕に代表されるある種雑然とした音楽のアンサンブルの見事な捌き、叙情的な音楽をじっくりと聞かせたメリハリのはっきりとしたもの。走らせるところは走らせ、感情の高ぶるところは「ぐっ」と高まらせ、歌うところはこれでもかと思う程存分に歌わせと、「もっともっと極端にやってくれい!」と言いたくなる程に直接的に聞き手の心をつかむ演奏。そう言えるのも、やりたい放題に見えて、全体の構成は至極しっかりしている井上道義の構成力の確かさゆえ。対する東フィルはそんな井上の指揮に応えてやや音が荒いかなあという気もしましたが、すこぶる生き生きとした演奏で応えていました。弦が役柄の感情を示す部分の気持ちの入り方はなかなかのもの。特に、弱音でも表情を失わないで歌を支えた弦の表現力は素晴らしかった。合唱および児童合唱も生き生きと歌っていて好感度の高い演奏でした。
ソリスト陣はよく粒がそろっていて、各人の個性を発揮した好演だったかと。ミミのニテスクは最初のうちはもう少しかわいさが欲しいかなと思いましたが、第3〜4幕は見事な出来。特に、4幕でロドルフォと2人になってから淡々と語るように歌われたその死までの部分は、テンポをぐっと落としピアニッシモで表情豊かに支えるミッチー指揮するオケ共々今日の公演の白眉でした。ミミの命の炎がだんだんと弱まって来るのが手に取るように感じられて、涙腺が緩むことこのうえなし(笑)。ロドルフォのヴァレンティはシャープでやや優等生的な印象の役作りが特徴。技巧的には高い声の響きがさらに乗ってくるといいかなと。マルチェッロのフレデリクソンは明るく伸びのある声が素晴らしい。スタイリッシュでカッコイイマルチェッロ像を演じていました。ムゼッタの水嶋育は良く歌えていましたが、ややキャラクターが薄いのが残念。「私はムゼッタよ!」みたいな我の強さが欲しいですね。ショナールの河野克典は柔らかい声を生かした好演、もう少し声量は欲しい気もしましたがみずみずしい表現とあくの少ないキャラクターは好ましく感じました。リートだけでなくオペラにもたくさん出て欲しい人です。コッリーネのリーは存在感のある声と力強さが印所的。ショナールとのキャラクターの差が極端なまでに出ていて面白かったです。彼は昨年のフィガロにもバルトロで起用されていましたね。
演出は粟國淳。オーソドックスな舞台と音楽の細かな動きを的確に捉えた演技の付け方は彼の特色が良く出ていたと思います。中でも、2幕のカフェ・モミュスの場面は劇場の奥行きを生かして見ごたえのある舞台を作り出していました。安心して音楽に浸れる好演出でした。
今度は再演ではなく、練習時間のとれるプレミエで井上道義の再登場を期待したいですね。やっぱりプッチーニがいいかなあ(笑)。
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