五嶋みどり/M.ヤンソンス/バイエルン放送響 シベリウス/チャイコフスキー
昨年はコンセルトヘボウ管と来日したマリス・ヤンソンス。今年は彼のもう一つの手兵であるバイエルン放送響との来日公演。彼等の演奏はもとより、五嶋みどりの弾くシベリウスのコンチェルトもスケジュールがなかなか合わず、彼女の生演奏を聞くのは初めてなので余計に楽しみ。ということで、今日は赤坂へ。
マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送交響楽団ホールに入って舞台に目を遣ると、本プロでは使用しない筈のピアノとチェレスタが舞台左奥に設置してある。アンコールに鍵盤楽器が必要な編成の曲を用意しているということですな(笑)。
1. ベートーヴェン : 序曲「レオノーレ」第3番 作品72b 2. シベリウス : ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47 休憩 3. チャイコフスキー : 交響曲第4番へ短調 作品36 アンコール 4. チャイコフスキー : バレエ音楽「くるみ割り人形」 から グラン・パ・ド・ドゥのアダージョ 5. ストラヴィンスキー : バレエ組曲「火の鳥」 から カスチェイ王の魔の踊り
ヴァイオリン : 五嶋みどり(2)
マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送交響楽団
2005年11月27日 14:00 サントリーホール 大ホール
オーケストラは1Vn-2Vn-Vc-Va/Cb右、ホルンは右側の配置。弦の編成はシベリウスが1プルト減らした14型だった以外は全て16型。
まずはベートーヴェン、序曲「レオノーレ」の第3番から。バイエルン放送響の明るくかっちりとしていながらも暖かいサウンドをベースに、ヤンソンスの持ち味である逞しさを加味した力強いベートーヴェン。まったく奇を衒ったところのないヤンソンスの音楽作りは好感が持てます。エネルギーの蓄積と開放のコントロールも実につぼにはまっていますし(特に開放の方)、時折ティンパニを楔を打つように強打させ、リズムにアクセントを付けるのも嫌味なく決まります。腹に応える充実したベートーヴェンだったと言えるでしょうか。舞台裏からのトランペットは、トランペットは2階Cブロック裏のロビーで吹いていたようです。
2曲目は五嶋みどりをソリストに迎えたシベリウスのコンチェルト。冒頭のさりげなくかつ凛とした意思の強さが感じられる五嶋みどりの弾いた一節、ひんやりとした空気感がホールを満たすのがわかります。その一節だけで彼女のシベリウスの世界へと引き込まれてしまったと言っても過言ではありません。次第に激しさと熱さを増していく彼女の演奏。その凄まじいといっていい程の曲に対する集中の度合いは並みじゃない。細身ながらも鋭さと緊張感を伴ったピアニッシモの美しさと、激しいとも言える踏み込みの鋭さとの対比が実に素晴らしい。ヤンソンスとバイエルン放送響も内に秘めた熱いエネルギーを感じさせる演奏で、五嶋みどりのソロに柔軟にかつダイナミックに付けて秀逸でした。そんな中でもほのかな暖かさを感じさせてくれるのはオケの特色なのでしょうか。アンコールはありませんでしたが、またスケジュールを調整して彼女の演奏を聞いてみたいものです。
休憩中、前半は出番のなかったチューバ奏者が軽くウォーミングアップ。初めは後半のチャイコフスキーを軽く吹いていましたが、その後は火の鳥のある曲を吹いていたり(笑)。それってもしかして、アンコール曲じゃないの?そして、ハープが2台運び込まれていましたね、これもアンコール用ですな。
後半はチャイコフスキーの第4交響曲。ヤンソンスの振るチャイコフスキーは、2002年のピッツバーグ響との来日公演で聞いた第5交響曲以来。この曲の私小説を思わせる内向的な性格を強調するのではなく、ダイナミックにエネルギーを放出する健康的な性格付けを重視した演奏だったように聴きました。1曲目のレオノーレでも感じたエネルギーの蓄積と開放(放出)が更にダイナミズムを増して実現されていました。それでもロシア系指揮者とオーケストラがやるような土臭さは殆どなく、力強さとヨーロッパ的な洗練が感じられるのはヤンソンスの持ち味。もちろんバイエルン放送響の伝統が持つ力の影響も大きいのは確かなところ。第1楽章主部の陰を感じさせながらもどこか暖かい音楽の運び、第2楽章のオーボエから引き継がれたチェロの奏でるメロディーの裏でフルートが吹く美しいフレーズを浮かび上がらせていたのは目から鱗、第3楽章はピツィカートをまるで波が打ち寄せて引くようにコントロールしていたのが印象的、終楽章は開放的なエネルギーの放出で凄い迫力。最後の数小節で更に追い込みを掛けてフィニッシュ。個人的にこの曲はもう少し陰を感じさせてくれる演奏が好みですが、聞き応え十分の充実した演奏だったと思います。
アンコールの1曲目は「くるみ割り人形」第2幕のパ・ド・ドゥのアダージョ。ハープから始まりシンフォニックかつ雄大なスケール感で仕上げたダイナミックな演奏。2曲目は休憩の時にチューバ奏者が吹いていた曲、「火の鳥」のカスチェイ王の魔の踊りでした(笑)。迫力満点ながらも踊りのリズム感を失わない好演。でも、火の鳥なら「子守唄~終曲」を演奏して欲しかったなあと思うのは私だけでしょうか(^^ゞ。
結局、チェレスタは使いませんでしたね(笑)。ヤンソンスとバイエルン放送響は明日も引き続いてこのホールでチェレスタを使う曲を含むコンサートがありますから、両日に対応できるセッティングをしたということなのでしょう。
Comments
五嶋みどりの「凄まじい集中力」、同感です。何もあそこまで、と痛々しさすら感じられるほどの凄まじさ。この日はアンコールでバッハ「無伴奏ソナタ第2番」のアンダンテを演奏してくれました。祈りに満ちた素晴らしいバッハでした。
五嶋みどりは演奏中の集中力と楽章間やカーテンコールでの笑顔の対比がとても印象的でした。