飯守/東京シティ・フィル オーケストラル・オペラV ワーグナー:ローエングリン
昨年、神々の黄昏の充実した演奏で4年がかりの指輪を完結させた飯守/東京シティ・フィル。めでたく今年もシリーズが継続されて、ワーグナーのローエングリンが上演されるとなればいかねばなるまい(笑)。ということで上野へいってきました。
東京シティ・フィル オーケストラル・オペラV ワーグナー:ローエングリンなんといっても飯守泰次郎指揮する東京シティ・フィルをまず称えるのが筋でしょう。本当に1年毎に演奏が充実していくのが手に取るようにわかりますね。飯守の奇をてらったところのまったくない音楽作り。決して派手ではないけどしっかりと実の詰まった充実度の高いオケのサウンド感。落ち着いた音色を奏でる弦楽器、ハーモニー感のある木管と金管のアンサンブル。オーケストラだけを聞いても十分ドラマを感じられる表現力の豊かさ。飯守のバイロイトでの経験を糧に、毎年成果を積み重ねていくことの成果が見事に結実していました。トーキョーリングでのメルクルのすっきりと見通しの良いワーグナーも魅力的でしたが、本流のまさに「ドイツ」をそこここに感じさせてくれる演奏でした。カーテンコールで指揮者とオーケストラに盛大なブラヴォーが浴びせられていたのも、十分に納得できる素晴らしい演奏でした。
ワーグナー : ローエングリン
ハインリヒ王 : 鹿野由之 ローエングリン : 成田勝美 エルザ : 緑川まり ゴットフリート(黙役) : 大雅 オルトルート : 小山由美 王の軍令使 : 成田博之 4人のブラバントの貴族 : 中村元信」 大久保憲 東嶋正彦 大澤恒夫 4人の小姓 : 宇田川かおり 渡辺恵津子 丹羽智子 磯地美樹
飯守泰次郎指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 (コンサートマスター:戸澤哲夫) 洗足学園音楽大学・学園創立80周年記念合唱団 二期会合唱団 (合唱指揮:常森闘志/四野見和敏)
演出 : 鈴木敬介
2004年9月11日 14:00 東京文化会館 大ホール
ソリスト陣ではオルトルートの小山由美が素晴らしいのなんのって。役柄に即したいやらしさと存在感を、充実した声による音楽的な表現力の豊かさと凄みのある演技が本当に見事でした。2幕前半のまずフリードリヒと、続くエルザとの緊張感のあるやりとりは今日の上演の白眉といっても過言ではなかったと思います。
オルトルートの夫を演じた島村武男が小山由美に続く充実した出来栄え。オルトルートに操られる哀れな夫の役どころを十分に表現していました。
ハインリヒ王の鹿野由之は威厳のある声質は王にぴったりですが、やや力が入ったか第1幕では高い声域での安定感と歌唱のなめらかさに欠けたのがやや残念。ローエングリンの成田勝美はやや線が細いながらも、ぴんと声を張った時の素晴らしさは聴き応え十分。3幕はじめ等で安定感に欠ける歌になってしまったのがマイナスポイントかも。エルザの緑川まりは役柄をほぼ掌握した歌唱と演技は素晴らしい出来。ただ、小山由美の素晴らしい出来と比較してしまうとね・・・、と思ってしまうのは致し方ないところでしょう。王の軍令使の成田博之は伸びのある安定した歌唱で、儀礼を先導する役割を十分に果たしていました。
合唱は、男声合唱が素晴らしい出来栄え。存在感のある群集を実のある歌声で時に荒々しく、時に美しく充実した歌唱。反面女声合唱は高い声域でのクリアランスがもっと欲しいかなと。特に、3幕の婚礼場面でやや気になりました。
演出は昨年までの高島勲に代わって鈴木敬介。昨年までのオーケストラと舞台を融合した舞台づくりとは違い、明確にオーケストラと舞台を分けた配置が目を惹きました。左右にコロセウムの一部を切り取ったような装置を作って合唱を配置し、真ん中の通路と合唱隊の前を主に使用していました。白鳥は白い布を鳥に見立てて表現していたり、婚礼の場でのベッド(状)の金色の装置を立体感をかもしだすのに利用してみたり。全体的に鈴木敬介らしい、音楽を聴くことをまったく邪魔することのないオーソドックスな演出でした。ただ、場面転換時の騒音はもう少し減らす方向で考えて欲しかったなと思います(音楽が繊細なだけに余計に)。
今回のローエングリンの上演は、現行版(ペータース版)に基づき慣習的なカットをカットを行わないもの。その点でも特筆すべき上演でした。
飯守/シティ・フィルのこのシリーズ、いろいろ困難な面もあるとは思いますが是非来年以降も継続してワーグナーの主要舞台作品を上演していって欲しいものです。
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