えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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天羽明恵 ソプラノリサイタル ベートーヴェンとシューベルト

先月ゼンパー・オーパーで十八番のツェルビネッタで代役デビューした天羽明恵は仮面舞踏会のオスカル、ナクソス島のアリアドネのツェルビネッタ、アラベラのズデンカ等、オペラでの活躍は何度も接してきました。リサイタルでは聴くのは初めて。今日はトッパンホールのシリーズ「ベートーヴェンとシューベルト」シリーズ最終回に登場。
ベートーヴェンとシューベルト 天羽明恵 ソプラノ リサイタル

1.ベートーヴェン四つのアリエッタ 作品82
1.希望
2.愛の嘆き
3.アリエッタ・ブッファ:いらだつ恋人
4.アリエッタ・セリオーソ:いらだつ恋人
2.シューベルト歌曲集(8曲)
野ばら D257
糸を紡ぐグレートヒェン D118
ガニュメデス(ガニュメート) D544
ミニョンの歌より ただ憧れを知る人だけが D877-4
ズライカI D720
ます D550
君こそわが想い D776
岩上の羊飼 D965
- 休憩 -
intermission
3.プフィッツナー七つの歌 作品2 より
2.だから春の空はあんなに青いの 作品2-2
4.深い森に隠れて 作品2-4
5.小鳥の歌声が聴こえる 作品2-5
6.わたしのまどろみはしだいに浅くなり 作品2-6
7.内緒話 作品2-7
4.ウルマン五つの愛の歌 作品26
1.きみはその美しさすべてをどこから得たのか
2.ピアノに
3.あらしの歌
4.美しいものを生み出す幸運に恵まれたとき
5.ああ、美しい手、うてな、その香りは音楽
- アンコール -
encore
5.グルリット孤独(Die Einsame)
6.R.シュトラウス六つの歌 作品68 より
アモール 作品68-5

ソプラノ天羽明恵
ピアノ松川儒
クラリネット四戸世紀(D965)

2004年6月26日 14:00 トッパンホール
前半はベートーヴェンとシューベルト、後半はプフィッツナーとウルマン。だんだんと現代に向かっていく興味深いプログラム構成です。

最初はベートーヴェンのイタリア語のアリエッタ。「希望」ではやや音への言葉の乗りがいまいちでいまひとつ流れが悪い印象でしたが、曲が進むにつれていつもの調子を取り戻した様子。「いらだつ恋人」に付された二つの曲の違いが明確に表現されていました。「なんでこないのよ!」とひたすら当り散らすような前者、「どうしたのかなあ?→ぷんぷん!」と感情の動きを描いた後者。こういった違いを的確に表現できる実力は、オペラの舞台で活躍しているからこそでしょう。

次はシューベルトのリートから8曲。「野ばら」や「ます」の生き生きとした歌いぶり、心の動きと最後の感情の高まりをスケール感を持って表現した「グレートヒェン」、じっくりと歌われた「ただ憧れを知るひとだけが」、クラリネットとの掛け合いが楽しい「羊飼」。どの曲も癖がなく的確に表現がなされていて、今の彼女が等身大で表現できる作曲家なのかなあと感じました。言葉の処理も巧みでした。

前半は白いドレスを着ていたのですが、後半は黒いドレスで雰囲気を変えて登場。音楽も前半とは違う退廃的な雰囲気が漂うもの。プフィッツナーでは、前半とは歌曲の表現の幅が広がっているのを自然と感じさせる自由度のある歌いぶり。「内緒話」なんかはとても面白く聞きました。ウルマンにいたってはピアノ共々さらにスケールの大きさも加わって、プログラム全体で歌曲の時代の変遷を追体験しているようでした。

アンコールはロマンティックなグルリットと技巧的なR.シュトラウスの作品。特にR.シュトラウスのアモールは音も細かく動き、跳躍音もかなりある技巧的な歌ですが彼女の歌うツェルビネッタを髣髴とさせる素晴らしい歌唱でした。

今日聞いていて、声域による声の切り替えを非常にうまくやっているなあと思いました。低音は地声を生かしたやや太め響き、中高音は細かなヴィヴラートにのせた細めの響き。その切り替えが非常に滑らかで違和感がないのには感心しました。

ピアノの松川儒は的確なサポートぶりで好感がもてました。「グレートヒェン」での不安を表現した音の動きや、ウルマンでのダイナミックな表現はとても素晴らしかったと思います。また「羊飼」でのクラリネットを演奏した四戸世紀は、もうすこし音に深みがあるともっと良かったと思います。

歌曲の時代変遷と表現の広がりを実際に音として天羽明恵が証明してくれたような演奏会でした。彼女の技量の高さとレパートリーの広さ(適応能力の高さ)に感心しました。
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